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障害者アートの販売|代金が誰に届くのかを、20の窓口で調べました

2026年8月24日

目次

障害者アートの販売とは、障害のある作り手の作品を、原画・ライセンス・グッズ・レンタルなど複数の形で買い手に届ける仕組みの総称です。代金がどこに向かうかは形によって違い、ある窓口では作家個人の著作権使用料になり、別の窓口では事業所の工賃の原資になり、また別の窓口では雇用契約に基づく賃金になります。

隣り合う棚に、同じような値札のトートバッグが2つ並んでいることがあります。どちらにも「障害のある方のアートです」と書いてある。片方を買うと、代金は作家個人の著作権使用料になる。もう片方を買うと、代金は施設の生産活動収入に入り、そこから経費を引いた残りが工賃として分配される。買い手はこの違いを、店頭でもオンラインストアでも見分けられません。

私が確かめたかったのはそこでした。障害者アートを買うと、お金は誰にいくら届くのか。売り場を見ているだけでは答えが出ないので、20の窓口を当たりました。19件は公式サイトを開いて読めましたが、1件はサイトそのものが開きませんでした。届出文書まで当たれたのは、障がい者アート協会の1件だけです。

代金の行き先は7通りに分かれる

「障害者アートを買う」とひとことで言っても、買い手が実際に支払っている対象は同じではありません。調べていくと、代金の行き先は少なくとも7通りに分かれることが分かりました。

型買い手が買うもの代金の行き先根拠となる法律実例
①原画・作品そのもの一点もの施設・ギャラリーの取り分を引いて作家へ。配分は施設ごとに異なる私法上の売買(共通ルールなし)ヘラルボニー(原画¥198,000〜¥1,760,000)
②企業へのアートライセンス作品を使う権利著作権使用料著作権法障がい者アート協会・パラリンアート
③ライセンス由来のグッズTシャツ・雑貨など商品代金の一部が、②を通じて作家へ、または作家が所属する施設・団体へ。どちらに向かうかは事業者ごとに書き方が違い、率はほぼ非公開著作権法ヘラルボニー(作家へ)・IBLIV(所属する施設・団体の活動へ)
④福祉事業所の自主製品事業所が作った物工賃(生産活動収入−経費)指定障害福祉サービス基準第201条・第85条PIPPO
⑤特例子会社の社員が作った商品会社が作った物賃金労働基準法・最低賃金法パソナハートフル アート村
⑥アートのレンタル一定期間の設置レンタル料の一部が団体経由で作家へ私法上の賃貸借+著作権FUKU・WARAI(月7,000円〜)
⑦協会が複製を売り、画家に月額を払う複製グッズ月々の生活費(会員)・返還不要の奨学金(奨学生)協会定款(国際組織)口と足で描く芸術家協会

同じ「障害者アートのトートバッグ」でも、代金の行き先は一様ではありません。③のライセンス由来のグッズは、著作権使用料として作家個人に入ると書く窓口もあれば、作家が所属する施設・団体の活動に役立てると書く窓口もあります。収益の一部が届くという書き方をしていても、事業者によって指す先が違うということです。④なら作家個人ではなく事業所の生産活動収入に入って工賃の原資になり、⑤なら賃金の一部になります。届く先も、届く人数も、根拠となる法律も違います。

なかでも④と⑤の違いは大きいです。④の福祉事業所が作る自主製品は、指定障害福祉サービス基準という省令の条文で工賃の計算方法まで定められています。一方⑤のパソナハートフルは特例子会社で、社員は雇用契約を結んでいます。だから対価は工賃ではなく賃金で、最低賃金法が適用されます。A型事業所とB型事業所の違いと同じ構図が、ここにも現れています。

20件を調べて、数字まで公開していたのは3件だけでした

代金の行き先を、率または金額まで公開している窓口はどれだけあるのか。20の窓口を1件ずつ当たって確かめました。

集計件数
率または金額まで公開3件
経路は明記しているが率・金額は非公開10件
代金の行き先の記載なし6件
到達不能(サイトが開けなかった)1件

数字まで開いていた3件がこちらです。分母がそれぞれ違うので、必ず分母とセットで読んでください。並べて平均を出したり、業界の相場として扱ったりはできません。

  • 障がい者アート協会:著作権使用料の100%が作者本人へ。全期間累計¥39,999,227(4,315名・2026年8月4日時点の公表値)
  • パラリンアート:利益の50%を報酬として支払い。第13期(2024年4月〜2025年3月)の作者報酬総額14,469,407円(193名)。どちらの数字も、このページで公開されている第13期の活動報告書に載っています
  • エイブルアート・カンパニー:販売用製品は本体価格×生産数×5%(最低60,000円、2023年6月改定の標準価格表)。これは使用者が支払う使用料の算定式であり、作家の取り分ではありません

3件目のエイブルアート・カンパニーを主管しているのは、一般財団法人たんぽぽの家です。納品書・請求書・領収書も、たんぽぽの家から発行されます。この同じ法人については、もう一つ別の開示があります。原画の売上のうち3割を作家本人に渡し、残りの7割を利用者全員の基本給・時給に組み込んでいる、という配分です(アートが買いたい!Q&A|DIVERSITY IN THE ARTS TODAY、2018年5月23日、話者はたんぽぽの家の森下静香氏)。ただしこれは公式サイトの記載ではなく取材記事での発言で、話者自身が「このやり方はちょっと特殊かもしれません」と断っています。使用料の価格表とは別の話として読んでください。

障がい者アート協会の「100%」を商品代金の100%だと読まないでください。100%なのは著作権使用料の部分で、そこに創作活動応援費という別枠が加わり、アート使用料全体になります。パラリンアートの「50%」も、代金の半分ではなく、経費を引いたあとの利益の半分です。

残る17件のうち、10件は経路までは書いています。ヘラルボニーは「収益の一部を作品使用料として作家へ支払う」循環の図を示していますが、率は公開されていません。IBLIV・PIPPO・キャンバス・ability・FUKU・WARAI・ハートウイング・口と足で描く芸術家協会・せせせも同様に、代金が作り手側へ向かうという経路までは書きながら、率や金額は非公開です。

10件目の日本セイフティーだけは、書いている場所が違いました。工事現場の仮囲いや足場幕に作品を印刷して施工する法人向けのサービスで、発注すると障がい者アート協会と日本セイフティーの2社から、それぞれ別に請求が起こると案内しています。協会からは作品使用料とデザイン作成費用、日本セイフティーからはプリントシール作成費用と施工費用。20件のうちここだけが、支払った代金のどの部分が作家の側へ向かうのかを、発注者が請求書の上で見分けられる形になっていました。とはいえ分かるのはそこまでです。協会に渡る作品使用料のうちいくらが著作権使用料なのかも、日本セイフティー側の費用がいくらになるのかも、この案内からは分かりません。価格は見積もりです。

残る7件のうち6件は、代金の行き先そのものの記載がありませんでした。INCURVEはその一つで、「日常が9割、アウトプットは1割」として創作環境を守る方針を明言しており、情報を出さないこと自体が編集方針でありうると分かります。マジェルカアートに至っては、サイトそのものが開けませんでした。これらを不誠実と見なすことはできません。障害者による文化芸術活動の推進に関する法律第14条は、対価の授受に関する連絡調整を支援する体制の整備を国と地方公共団体に求めていますが、民間の事業者に率や金額の開示を義務づける規定はありません。少なくとも障がい者アート協会が使用料規程を公開できているのは、著作権等管理事業者として届出が義務づけられているからです。

工賃という物差しが効く範囲と、効かない範囲

「その買い物が、作り手の工賃になる」というのが、私がこのメディアで繰り返し使ってきた言い方です。障害者アートを調べてみて、この言い方がどこまで正確に使えるのか、確かめておく必要がありました。

工賃の定義は、省令にはっきり書かれています。指定障害福祉サービス基準の第201条は、就労継続支援B型の事業者に対し「生産活動に係る事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を控除した額に相当する金額を工賃として支払わなければならない」と定めています。生活介護事業所についても第85条に同じ趣旨の規定があります。売上そのものではなく、経費を引いた残りが工賃です。

では、著作権使用料は工賃に当たるのでしょうか。厚生労働省の「就労支援事業会計の運用ガイドライン」は、生産活動収入の例として、パン・クッキーなどの製品の販売収入、仕入れた商品の販売収入、下請け作業による加工賃収入、清掃などの受託収入を挙げています。著作権使用料はこの例示に入っていません。全54ページを検索しても、「著作権」という語は一度も出てきませんでした。

工賃が「生産活動収入−経費」だということは、省令ではっきり定義されています。ここまでは確かです。ですが、著作権使用料がその生産活動収入に数えられるのかどうかは、省令にも会計ガイドラインにも書かれていません。「著作権使用料は工賃になる」とも「ならない」とも、私が当たった一次資料からは言えませんでした。

だから、④福祉事業所の自主製品を買うときは、工賃という言葉を条文の裏づけを持って使えます。②③のライセンス経由の買い物では、その代金が制度上の工賃の枠組みに入るのかどうかを、公的資料で確認できませんでした。同じ「買い物が作り手に還る」という一文でも、根拠の強さが違います。制度としてこうなっている、という話と、ある施設が実際にこう運用している、という話は、別のものです。たんぽぽの家の3割・7割の配分は、後者の実例です。

買う前に確かめておきたいこと

窓口を調べる過程で、買い手が抱きそうな疑問にいくつか答えが見つかりました。

作家本人の同意はどう取られているのか。障がい者アート協会は文化庁登録の著作権等管理事業者として、作家と管理委託契約約款を結んでいます。契約は電子契約サービス上で完結し、未成年は保護者が代理人になります。エイブルアート・カンパニーも作家個人と契約を交わし、著作権自体は作家に残したまま使用の窓口だけを引き受けています。

そもそも作品を売りたくない作家もいるのではないか。そういう声から生まれた仕組みがあります。エイブルアート・カンパニーは2007年、「作品を売りたくないという声もあったので、オリジナルを売らずにどうしたら障害のある方たちの表現活動(アート)を仕事にできるだろうか」という発想から設立されました。原画を手放さずに対価を得る道を、当事者の声から作った例です。

「障害者アート」という括りで売ること自体はどうなのか。ここは窓口によって立場が分かれます。障がい者アート協会は「作品のアート性の優劣を判断する事は無く、作品の評価や選定をいたしません」と明言し、審査なしで登録できます。一方エイブルアート・カンパニーの作家は全国公募による選考を経て加わります。全員を受け入れる型と、選考する型が両方あり、買い手が見ている「障害者アート」の中身は窓口によって違います。

値段は一般のアートより高いのだろうか。ここは帯でしか答えられません。原画はヘラルボニーで¥198,000〜¥1,760,000、一般社団法人キャンバス(CANVAZ.ART SHOP)で¥9,900〜。グッズは口と足で描く芸術家協会が500円〜14,000円、せせせが108円〜3,510円(税込)。レンタルはFUKU・WARAIが月7,000円〜10,000円(税込・年払い)。一般のアート作品や他ブランドの雑貨と比べて高いか安いかは、比較できるだけの市場データを私は持っていません。

買ってイメージと違ったら、返品はできるのか。abilityの特定商取引法に関する表記には、「一点ものの商品という特性上、お客様のご都合(イメージと違う、サイズが合わない等)による返品・交換は原則お受けしておりません」とあります。色味や質感の個体差もあらかじめ了承する形になっています。買う前に、返品の条件までは見ておくとよさそうです。

相談先は47都道府県にある

障害者による文化芸術活動の推進に関する法律の第14条は、芸術上価値が高い作品の販売について「対価の授受等に関する障害者の事業者との連絡調整を支援する体制の整備」を国と地方公共団体に求めています。厚生労働省の障害者芸術文化活動普及支援事業によって、令和7年度には全都道府県に障害者芸術文化活動支援センターが設置され、7ブロックに広域支援センターも置かれています(厚生労働省の実施状況一覧)。センターの事業内容には権利の保護に関する相談支援が含まれます。ただし、買い手側の購入相談を受け付ける窓口かどうかは、公表資料からは確認できませんでした。

私が確かめられたこと、確かめられなかったこと

20の窓口を調べて、代金の行き先は7通りに分けられました。同時に、確かめきれなかったことも残っています。作品の値段を誰がどう決めているのかを公開している窓口は1件もありませんでした。買った作品を転売したときに作家へ還元があるかどうかも、20件のどこにも記載がありませんでした。原画を買ったときに著作権がどうなるかを明記している窓口も見つかりませんでした。

B型事業所とA型事業所の全国平均・都道府県別の工賃データは、工賃データベースにまとめています。障害者アートに限らず、福祉発の商品を買うときの物差しとして、あわせてご覧ください。


本記事の販売者・価格・仕組みに関する情報は、2026年8月24日に各社・各団体の公式サイトで確認したものです。価格・在庫・取扱いは変動し、一点ものの作品は販売終了とともにページが削除されることがあります。法令はe-Gov法令検索(障害者による文化芸術活動の推進に関する法律/指定障害福祉サービス基準)、支援センターの設置状況は厚生労働省「障害者芸術文化活動普及支援事業」の公表資料で確認しました。本記事にアフィリエイトリンクは含まれていません。